ブックタイトル国際印刷大学校研究報告 第13巻

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国際印刷大学校研究報告 第13巻

9印刷業経営体の形成過程と課題■はじめに先進国の印刷業の売上高,企業数および従業者数は,経済成長に連動して増えていたが,情報伝達媒体が紙から電気・電磁波へ代替された1980年代以降より低迷し始めた。電子媒体は伝達速度および送受信範囲が紙媒体のそれと比べて格段と優れている。日本の零細小印刷業(従業者数規模49人未満)の従業者数等は1990年代後半から年率5%前後の割合で逓減,製造業の2倍の速さで逓減している。逓減対応策としてコスト削減,投資縮小,サービス業務の取り込み(サービス業化)などを図っている。一部の印刷業はサービス業へ転業しているが,成功事例が多くない。サービス業化が進まない事由の1つには現在の経営環境と零細小印刷業の経営体制の不整合があると考えられる。経営環境は国内人口の減少,少子高齢化社会,産業の空洞化,アジア企業の台頭およびIT機器が世界に普及している状況(文献1)にある。現在の経営体制はIT機器が存在していなかった経営環境で構築されている。不整合を修正するには,現経営体制の形成過程および印刷業とサービス業の経営体制の相違点を明らかにすることが望まれる。本文は,形成に大きな影響を与えている印刷物の社会的価値,技術進化,印刷業の経営手法を整理する。1.技術進化,雇用の流れ情報の社会価値は情報の発信者と受信者が知りたい・知らせたいと思う内容,タイミング(速さ,場所),判りやすさ(言語,正確性)および価格で評価される。現在の印刷業は,紙,インキおよび印刷機械を社外から購入し,発注者が指示する内容を紙に印刷する賃加工業,つまり紙媒体の存在を前提とする情報複製サービス業である。経営体制の相違点を明らかにするには情報サービス業よりも歴史が古い印刷業の経営体制の形成過程の分析が手がかりになると思われる。情報提供収集機能を最も必要としている集団は組織で動く統治・行政機構である。印刷の発想は紀元前4千年頃のメソポタミア・バビロニア国の瓦書(粘土板)押圧にその一端が現れている。葦草パピルスは紀元前3.5千年頃~紀元935年までエジプトで書写材料に使われている。中国は異民族による統治の歴史が長く,紀元前には標準語が制定されておらず,異なる言語・話し言葉が国内に混在していた。当時の王朝は文字・書き言葉を用いて徴税などしている。文字の彫刻材料には紀元前220年頃から焼結粘土が用いられている。前漢時代(紀元前150年頃)の耒陽では,植物性繊維を水に分散させ,簀で漉き上げる紙の製造方法が発明されている。皇帝は国家統治のため紀元前134年に科挙制度を設けている。科挙制度は中央官吏を古典の知識量の多寡と詩作能力で選抜する登用制度である。古典書籍は紙が高額でありそれを読める機会が支配・富裕階級に限定されていた。合格者は書籍を読む機会に恵まれている支配階級の子弟・縁者で占められた。8世紀には中国・朝鮮で木版印刷,11世紀には朝鮮で銅活字印刷が始まっている。科挙制度は実務処理能力に欠ける者が合格し,派閥を形成するなどの弊害が目立ち,変更と中断が繰り返されて1904年若 生 彦 治印刷業経営体の形成過程と課題Management progress of printing industry and its reorganizationHikoji WAKOH