ブックタイトル国際印刷大学校研究報告 第20巻

ページ
14/44

このページは 国際印刷大学校研究報告 第20巻 の電子ブックに掲載されている14ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

国際印刷大学校研究報告 第20巻

12■国際印刷大学校研究報告第20巻(2020)4 印刷業の経営課題と対応策(1) 製造業の従業者1 人の雇用に要する年間売上高(純加工高,2008 ~ 10 年)は約9 百万円6)である。(2) 印刷・関連業の出荷額は97 年の7.2 兆円を頂点に平均年率2%で逓減しており,20 年間に7 割となった後も下落中である。2017 年の印刷企業数は頂点時の3 分の2,1.6 万社,この98%が中小規模,従業者数3 人未満事業所が6 千,10 人以上が6 千ある。従業者総数は最盛時(91 年)の40 数万から26 万人となった以降も下落中である。付加価値額7)は1985 ~ 2014 年の30 年間に製造業の平均2.75%で推移している。この額は頂点に達した96 年以降から製造業よりも2 倍の速さで下落中である。(3) 日本の産業の平均労働生産性は7.3 千円/ 時間・人(日本生産性本部)である。印刷業の労働生産性は年率4%(2006 ~ 11 年)で逓減している。この順位は製造業23 業種の中で年々低落しており,14 年に19 位へ下落した(中小企業庁)。労働生産性は中小規模に限定すると製造業の平均値の56%,4.1 千円である(全日本印刷工業組合連合会,2017 年調査)。(4) 大手2 社の合計売上高は印刷業全体の4 割を占め,この取引額の34%が同業者同士の業務委託である。業務委託は受注の繁閑の平準化,不足する設備のやり繰り,投資抑制に利用されている。中小規模印刷業の14%はデジタル印刷物の売上高が2015 年から20 年間以内にオフセット印刷の売上高を超えることが無いと予想8)している。この予想,認識は経営規模,社内でも技術職と顧客に接する営業職で異なる。(5) ERP の導入は米国より10 年遅れの00 年代から始まり,この導入率が米国の半分である。大企業はERP を導入し設備稼働率の向上,製本作業の内製化,在庫品を縮小している。製本,裁断作業の従業者数比率は50 人規模/ 社で10%台,千人規模で30%台である。(6) 中小規模印刷業の作業部門別就業者数の構成比率は2010 年前後の9 年間に製本が微増した以外,生産部門が6 割と無変化である。中小規模印刷業のデジタル印刷機導入率は売上高比で08 年0%から16 年に10%となった。とは言え,設備の主力はオフセット印刷機が9 割である。この印刷機は既に平均6 年間使われ,更新期間が毎年延長されている。(7) オフセット印刷機の作業時間比は準備(前)工程75%,印刷工程20 および後工程5 である。前工程作業の大半は受注,見積,割付,色別刷版の作成,機械の中の残滓物洗浄である。印刷工程の大半は色彩を一定に保つため数種類の色インキの膜厚比監視・制御である。作業の97 ~ 98.5%は準備,連絡,待ち,品質維持など人的な作業に費やされている。(8) 経費の比率は日本が紙代(日本23%,米国19)と外注費(日本21,米国15),米国が設備維持(日本10,米国17)で相対的に高い。日本の印刷物は材料費と外注費が売上高の43%を占め,限界費用がゼロに近い。(9) 中小印刷業は平均収益率が情報通信業の1 / 3.5 ~ 1 / 10.3(表3),1 人当たり教育研修額(年間2.5 万円)が売上高の0.2%であり,他業種と比べて高くはない。中小印刷業の44%は経営が困難,経営者の高齢化,後継者不足および撤退(表4)に直面している。(10) 研究実施と未実施の従業者数規模は約27 倍の差がある。研究開発費の計上企業は上場企業が圧倒的に多い(33 社のうち20 社)。中小印刷業の研究実施率は0.57%である。(11) 印刷業は対応策として,①梱包容器印刷などへの事業特化,②購入したデジタル機器を基に事務処理作業の受託,③紙媒体と電子媒体の情報互換業務の市場開拓,④ダイレクトメールの送付,⑤加工対象(3D 印刷)・事業領域(バイオ)への転換,⑥地域のイベント・企画提案,⑦資格習得・ユニバーサル規格・標準化・工房経営を試行錯誤している。   個人が必要と思う情報をその場・時点で得たい心理は技術,媒体の機能を進化させている。